お侍様 小劇場
 extra 〜寵猫抄より

    “木洩れ陽きらちか♪”


今年は焦らされまくったお花見からこっち、
どうかすると10度も差があるほどの
暑くなったり寒くなったりが日替わりでやって来たり。
はたまた、台風みたいな突風や竜巻きが町中を蹂躙したり。
そうかと思えば、
いいお天気だったのが一気に暗くなっての雹が降ったり、
滝みたいな雨と共に、凄まじい落雷があちこちを襲ったり。

 「とんでもない人為事故も多かったですが、
  そういった天候の急変は防ぎようがありませんものね。」

まま、それを言ったら交通事故だって、
向こうがいきなり突っ込んでくるタイプのは、
歩行者には用心のしようがないのだが。

 “そういう揚げ足取りは よしてくださいませ。”

  ………すいません。

体質的にも苦手なので、
暑い夏になるのは心底かなわないなと感じる七郎次だけれど。
この時期の快晴と、半袖になりたくなる暑さは、実を言えばお気に入り。
庭木の梢にも、
柔らかそうな、それでいて鮮やかな、
瑞々しい若葉が顔を出しており。
なんて沢山の緑色があるものかと、
毎年のことだのに、同じように感嘆を誘われる。
陽だまりの落ちる芝草の方も、
やわらかいのが いつの間にやらどんどんと成長中で。

 「日蔭のはずが そうは見えないほども明るいんですよね。」

サツキの茂みもユズの木も、
発色のいい黄緑の新しい葉がたわわに顔を出しているし。
アジサイの株も、
大きな葉をもりもりと広げていつもの一角を侵食中。
どんなに刈っても気がつけばというノリで、
今年も思わぬところから花が咲いていたのが、
白いドクダミと青紫のオダマキで。

 「にゃっvv」
 「ああ、ビワが色づき始めたね。」

食べるための木じゃあないからほったらかしだが、
それでも冬場に花がついた数だけついた実が、
ほのかなオレンジ色に染まりつつある。
それが何なのかは判らないらしいが、
目に入れば興味が向くものか、

 ねえねえ、ほら見てと

七郎次の足元までとてとてと拙い足取りで寄って来て、
長い御々脚に柔らかな手で掴まると、
頭上を覚束ぬ角度で指差す幼子の愛らしさよ。
金の綿毛が光にけぶり、
色白な頬には白桃のそれのような赤みがさっと散る、
いかにも愛らしい和子に見えているのは、
残念ながら家人にのみというおちびさん。
足元の芝に落ちた影は、
お耳の大きい、ぽわぽわっとした毛並みの
メインクーンちゃんのそれだし、

 「みゅうにぃvv」

後からとてとてと追って来た、も少し小さな黒猫さんを振り返ると、
にゃあうvvと目許をたわめての相好を崩しつつ、
あしょぼ・あしょぼvvと小さなお手々を出し合って。
後足で立ち上がったり、ぴょこたんと跳ね上がったり、
あっと言う間に絡まり合っての、
芝生の上で転げ回ってしまう無邪気さよ。

 「ありゃりゃあ。」

おいおい・ねえねえと前足を振り合ったかと思えば、
て〜んっと転げた相手へのしかかったり。
そうかと思えば、
鼻先をふわふわひらりと軽やかに飛んでったモンシロチョウへ、

 「みゃ?」
 「にぃ?」

二人同時に気を取られ、
待て待て待ってと出足をもつれさせつつも起き上がると、
競争するよにして追っかけ始めたり。
楽しくてしょうがないんでしょうねぇと、
和子らの視線に合わせるように、
そちら様もいつの間にかしゃがみこんでの、
すぐ傍らから眺めておいでだった七郎次おっ母様だが。

 「………ああ、いけない。」

洗濯物を干してたんだっけと、
途中だったの思い出し、
置きっ放しになっていたカゴを手に提げると、
物干し台を据えた一角へのんびりと向かい始める。
そして、

 「島田せんせえ。」
 「………お? ああ、すまんすまん。」

そんなお庭を望める書斎では、
連載中の長編ものへ、
月刊誌へ掲載という構成上、どこでどういう山場を持って来るか、
ゲストキャラの外見はどこまで挿絵担当の絵師の先生へ伝えるかなど、
大まかながらも今後の打ち合わせというの、突き合わせていたはずが、
途中からこちらの壮年のせんせえ様もまた、
お庭で戯れる家人らへ、
視線が釘付けになっておられたのだから世話はない。

 「久蔵ちゃんも、遊び相手が出来たせいか、
  お兄ちゃんになってワイルドになったんじゃありませんか?」

こちらの林田さんには、
七郎次にべったり甘えていたような印象があるものか。
仔猫同士でだけで遊ぶ姿には、
ややもすると意外なものを感じたらしかったが、

 「なんの、遊ぶ折だけは先頭を切りたがるだけのこと。」

愛おしい我が子か、それとも自慢の恋女房をか、
すっかり呆けての見惚れていたこと、
今更 隠すつもりはないらしい大威張りな態度と口調にて。

 「クロより多少は大きいせいか、
  何につけ兄貴ぶって見えるがの。
  甘えたれなところは ちいとも変わってはおらぬ。」

 「ははあ。」

久蔵坊っちゃんの相変わらずなところ、
口許へ拳を当て、咳払いを添えての鹿爪らしく語り始めて。

 「七郎次に構ってもらいたがってのこと、
  遊んでおっても姿が見えなくなると、
  クロを放り出してでも、探しに戻りおるし。」

 「おや。」

 「風呂では相変わらず大暴れして、
  隙を見ちゃあ脱走しようと、
  ドア側で待ち受ける儂を駆け登りおるし。」

 「おおお。」

まったく困ったものよと言いたげに、
大きな手であごのお髭をすりすり撫でて。
精悍なお顔のその眉へも、
いかにもな憂いを染ませ、
感慨深げに寄せてしまわれるものの。

 “その駆け登るところは、一度でいいから拝見したいなぁ。”

きっとこの島田せんせえも、
こんな風に納まり返っての落ち着いちゃあいなかろと、
いかに楽しい構図かを想像しつつ、
こそり、そう思った林田さんだったのでありました。





   〜Fine〜  2012.06.03.





  *もしかして、直前のお猫様噺って拍手お礼に回したんじゃなかろうか。
   となると、いつから振りの久々なんだか…という
   仔猫さんたちの登場でございまし。
   相変わらずにお元気ですよ、はいvv
   そして大人たちもまた、相変わらずに親ばかです。(笑)
   でもって、
   久蔵ちゃんの シチさんの姿が見えなくなると云々…は、
   護衛せねばという使命感も手伝っての挙動でしょうにね。

    《 勘兵衛様、自分と一緒にしちゃあいけませんて。》

    「………クロ。」

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